地図自体を情報とのインターフェイスとして使うという提案もいくつか登場してきた。
ウェブが登場した最初のころから「クリッカブルマップ」というデザイン手法はあったが、それらは単に画像のなかにボタンを埋め込んでいるだけだった。
これに対して、ウェブ上の新しい地図インターフェイスは、時々刻々と変化する情報に対して、ユーザーがより効率的に、あるいは直感的にその文脈を把握し、必要とする情報を獲得することを助けるという「知的ナビゲーター」の役目を果たしている。
たとえば、ウォールストリート・ジャーナルが発行する個人向け金融専門誌『スマートマネー』のウェブ版に組み込まれている「マップ・オブ・ザ・マーケット」。
これは、証券市場のダイナミックな変動を地図におきかえることに成功したすぐれた事例だ。
この〝市場の地図″には、およそ六〇〇社の主要銘柄が業種ごとにまとまってレイアウトされており、株価の上下を色調の変化として、また時価総額が占有しているエリアの面積の変化として表現される。
マウスのカーソルを合わせると、企業名とNASDAQなど上場している市場での指数の上下が現われ、さらに詳しい情報が必要な場合はクリックするとメニューが出てきて時系列での株価チャート、経営指標、関連ニュースなどにアクセスすることができる。
また、自分が持っている銘柄だけをピックアップして地図をカスタマイズする機能も備えている。
従来は無味乾燥な数値の羅列だった株式市況を地図というかたちに変換することで、今までにない情報の理解を可能にしているといえよう。
「ニューズマップ・ドットコム」というウェブサイトでは、ハイテク関連のニュース記事や企業から配信されるプレスリリース、ネット上のニューズグループ(電子会議の一種)で交わされる議論を対象に、そこで扱われるテーマの重要性やテーマ同士の関係性を地図として視覚化することを試みている。
このサイトで使われている「テーマスケープ」という技術では、記事や議論のなかに出てくるキーワードを抽出し、同じようなキーワードが頻出する記事をひとかたまりの地域に集める。
関連する記事が多ければ多いほど、その地域は拡大し、とくにテーマが集中するとそれは「山」として表現される。
したがって、ニュース全体は、いくつかの高い山や低い山で構成された一種の山岳地帯のように見えてくる。
この地図の様子は、日々のニュースによって常に形を変え、ユーザーは地形の変化によってニュースの重要度、関心度の変化を読み取ることができるわけだ。
ワシントンに多数の博物館を擁するスミソニアン協会のサイトでは、試験的に行っているオンライン展示のなかで一風変わったナビゲーションを加えている。
プラムデザイン社が開発した「シンクマップ」という技術をベースにしたもので、展示物同士の関係性がネットワーク状に表現される。
シンクマップはビジュアル・シソーラス(類語辞典)と上:株式市場の変動を地図化した。
ある一つの言葉からそれに関連した言葉を芋づる式に探すことができる。
スミソニアンのサイトではこれを応用し、展示物を表現するキーワードを次から次へとたぐり寄せながら自分なりのスタイルで仮想的なミュージアムのなかを探索していく、という体験が可能になる。
未来のデジタル地図のデザインインターネットは急速にこの惑星を覆い尽くそうとしているが、この情報空間にかんする地理的な探査はまだ十分に行われてはいない。
その意味でインターネットは、未開拓の「フロンティア」の段階にあるといっていい。
したがって、これまで紹介してきたインターネットの地図製作者(カルトグラファー)たちの取り組みは、この広大なフロンティアを開拓していくために欠かせない指針を私たちに提供してくれることになるだろう。
ともあれ、情報という目に見えないモノ・コトに「かたち」を与えるデザインの営みにとって、地図というツールは強力な武器であることが、サイバースペースの地図づくりの試みからも理解できるのではないか、と思う。
もちろん、デジタル技術は目に見えない空間の地図をつくるだけにとどまらない。
実際に存在する物理的な空間の地図も、デジタル技術によってまったく新たなデザインの可能性を見せ始めている。
最近では、GISといって、コンピュータ上に生成されたデジタル地図の上にさまざまな統計情報や環境情報などを重ね合わせ、世界や国家、地域の状況をビジュアルに把握できるようにする情報システムの構築が進んでいる。
その究極のシステムを目指そうとしているのが、アメリカ政府が主導権をとって開発中の「デジタル・アース」構想だろう。
これは、高精細の三次元コンピュータ・グラフィックスとして視覚化した地球のモデルがベースとなった、立体的なデジタル地図。
利用者は、バーチャル・リアリティ(VR)の入力装置として開発されたデータグローブという特殊な手袋をはめ、まるで自分が神になったかのようにデジタル地球に手で触れながら、多様な情報にアクセスすることができるようになる。
地上のあらゆる地域の画像へと自由にズームイン・ズームアウトができたり、気象や動植物分布などの環境情報、あるいは人口動態や産業統計などのデータを重ね合わせて表示させたりすることができるようになる。
現在、NASAや国防総省、民間企業、大学などのさまざまな機関が協力してシステム実現のための要素技術の開発を精力的に進めている。
各種の調査や統計にもとづくデータベースやリモートセンシング・システムからの収集データを地図に重ね合わせることによって、いろいろな物事の多角的な理解や分析を可能とするGISは、産業から教育まで実に幅広い応用の可能性がある。
インターネット上でも、試行的にいくつかのGIS(インターネットGIS)が動いている。
たとえば、カナダ政府が公開している「ナショナル・アトラス・オブ・カナダ・オンライン」は、全国の人口統計や自然環境の状況などをアクセスした人がインタラクティブに条件を変えながら見ることができる。
日本でも、国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)と春日部秀和病院とが「ライブアトラス・プロジェクト」というGISをウェブ上に公開している。
これは、医療・社会・経済指標の市区町村別データを日本地図のインターフェイスに重ね合わせ、現在の日本人の「生命活動の地図」をつくる試みだ。
別にあるデータベースに蓄積されている膨大な統計データをもとに、各地域の住民の寿命、高齢者の割合、所得格差、といったことが地図形式でビジュアルに把握することができる。
従来なら、こうした統計データは、数値化され専門家の分析に供されるだけだったが、インタラクティブな地図というデザインを施すことによって、専門家でなくても全体の状況や地域ごとの違いを直感的に理解できるようになる。
都市のエコロジーを再発見する地図インターネットの地図から、実際の都市の地図に戻ることにしよう。
これまで、地図づくりは専門家の手によって行われてきたけれども、地域コミュニティの人々が協同作業を通して一緒に都市の新しい地図をつくろうという試みが世界各地で行われている。
こうした協同作業の基盤づくりもまた、人々の間での相互理解や知識の共有をよりよくするといグリーンマップの一例、アメリカ、ミルウォーキー市。
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